先生と私


7.山の手美術大学学生展のお知らせ

 「イーヒヒ」というか「ウェヒヒ」というか、私はそんな風に笑います。
 つい先日、ギャラリーにやって来た山の手美術大学の波路町美さんが『赤い二人(2007年)』を見て、「この二人はなぜ赤いのですか?」と質問したのです。『赤い二人』は手を繋ぎ坂道を駆け下りる少女から女性の中間ほどの、顔を赤くした若き女性を描いた作品です。この作品はいくつかの論を巻き起こしました。
 一つは、「走った後、息を切らしているから顔が赤い」。
 二つは、「興奮することを話しているから顔が赤い」。
 三つは、「好きあっているから顔が赤い」。
 先生もこの作品の答えを持ちません。2010年の美術誌『問と答 Vol.103』で「わからない」と答えています。ただ、赤ら顔で坂を下る女性の姿が煌びやかに見えたから、その瞬間を描き上げたのだと思います。
 私は三つの論を彼女に説明しました。そして質問をしてみました。「貴女から見て、彼女たちは何故顔が赤いと思いますか?」と。
 彼女は暫く唸りながら考えた後、「宇宙人とか…?」と答えたのです。
 その回答は私の頭に無かった新しい見解で、灰色の坂道を下る手をつないだ二人が地球を探訪する宇宙人と言われても説得力がある気がして面白くなってしまったのです。腹を抱え「イーヒヒ」笑い出す私の声がギャラリーに響きました。突然腹を抱えて笑いだした私に、人々が集まってしまったので、彼女は恥ずかしそうに萎縮してしまい、申し訳なく思いました。
 町美さん、あの時は本当にごめんなさい。誤解して欲しくないので弁明させてほしいのですが、貴女のその発想、素晴らしいと思います。本当です。
 人間の姿に擬態した宇宙人が街中を走り回るシーンだとしたら、彼らは他に何をするのか、新しい物語が始まりそうな、素晴らしい意見でした。

 華山先生にこの話をしたところ、先生も非常に面白がって下さり、ドローンにブランコがぶら下がった新しい乗物が、ビルの群群の上を飛んでいる『通勤風景』という新しい作品を描きあげました。町美さんが私に自分の考えを話して下さらなかったら描かれることのなかった作品です。

 波路町美さんは山の手美術大学で今季最優秀に選ばれた作品『自転車』が山の手美術館で開催される学生展で展示されます。自転車で職場に向かうサラリーマンの横にあるツールドフランスを映したテレビという、社会を切り取った一枚です。
 高い賞金を貰うツールドフランスの選手と、毎日通勤で自転車に乗るにも関わらず、それに対して給料を受け取れない一般社会に対する柔らかな批判でありながらも、真っ直ぐ前を見据え、次の一歩をこぎ出そうとするサラリーマンの希望が、瞳の輝きと、ポケットから見える好きなアーティストのものでしょう、PVC製と思しきストラップの反射光に「現実の中でも夢持って生きる人々」を見る事ができます。
 ちなみに、町美さんは「私も自転車で通っているのですが、お給料欲しいなって思ったんです」と話していました。私もそう思います
 この作品展は他にも、越智円さんの『土器とコップ』、川野イリナさんの『針金による家具』、天童祐希さんの『きんぴらごぼう』、そして私の記事ではおなじみ、ミチルさんの『手』などが展示される予定です。
 ぜひ、山の手美術館にご来場ください。

※お休みのお知らせ
 遂に私も休みを取る日がきました。お休みの日、皆さんは何をするのでしょうか、色んな人に聞いてみたところ、玉手君は「食事」、鳳先生は「読書」、ミチルさんは「個展巡り」と皆仕事に通じる何かしらの趣味を持っている様子でした。
 私も彼らを見習って、少し都会の喧騒から離れた場所に旅行し、息抜きをして来たいと思います。どこと今発表することはできないのですが、のんびり休んで来たいと思います。
 旅行期間(3~4日ほど)、私と先生に連絡取り辛い日が続くと思われます。旅行先からメールサービスを閲覧することはありますが、返事を書くことは難しいと思います。
 火急の用があります場合は玉手君と鳳先生が窓口になって下さるそうなので、そちらに連絡をお願い致します。

 楽しんできます!

2019/09/18

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