『異世界』『転生』系作品、100見た
■はじめに
この記事はAmazonの検索サジェストに「異世界転生」系の作品がメチャクチャ出てきてしまった私のスマホを利用して、さまざまな異世界への転生ものをとりあえず「転生先」「転生方法」「転生先身分」「死亡理由」「転生後の世界」などを100読見、調査したものになる。
上記の情報が判れば良いので読破した訳ではない。Amazonに限ったわけではなく、転生するのであればアニメ、ドラマなども含んだ。ゲームは含まなかった。
【AI使用に関して】
「転生先の身分」5種分類に関してChatGPTのアドバイスを参考にした。
■この作品は今回の調査で含みません
『異世界居酒屋のぶ』
小説家になろうから始まったナーロッパ(日本人が考えるざっくりとしたヨーロッパ風世界を指す。当初は侮蔑の言葉として使われていた(らしい)が、「こういう世界を指す」という言葉として適当だったため使用した)作品。異世界に繋がった居酒屋で織りなされる人間模様と料理に向き合った名作。異世界ものではあるが、転生はしていないため調査に含まなかった。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
通称BF。科学者ドクが開発したタイムマシンを使って過去にタイムスリップしたマーティが、自分の母親に惚れられてしまい…という歴史的名作。転生ものを調査している内に「その世界の過去」に転生する作品や、「本人が何らかの理由で移動する」など、それって転生に含んでいいのか?! という作品も転生に含まれていたため候補に挙がった。
『クリスマス・キャロル』
心無いケチな金貸しのスクルージはクリスマスの日、過去・現在・未来の精霊が目の前に現れる。過去の自分、現在自分が雇っている従業員の子が病に侵されていることを知る。街に居るホームレスたちや無学の子どもたち、スクルージが発した冷たい言葉は現在のスクルージに突き刺さる。そして、未来の精霊はスクルージの死後、誰も彼の死を悲しまない孤独な未来を見せられ改心し、クリスマス精神(誰かに分け与える心)を取り戻す。調査の中には「精霊」ものも含まれ、未来を見るスクルージは異世界への転生にも思えるのだが、あまりに名作のため含まなかった。
■調査結果
私が読むことができる作品、観ることができる作品という大変雑な調査であるということは前提にしてほしいのだが、以下のような結果になった。


【転生先世界】ほとんどがナーロッパ要素のあるハイファンタジー(魔法、スキルなど)世界、創作世界と書いているがこれは「ゲーム、小説、漫画、アニメの世界の中に入り込んだもの」その作品の世界観がハイファンタジーナーロッパである場合はほぼ9割なので、9割ハイファンタジーナーロッパ作品だった。
ハイファンタジーアジア作の中には中国ファンタジードラマなども含まれる。ざっくりとアジアにした。
現代ファンタジーは
<1>『継母に嫌われた私が突き飛ばされた先で、可愛い娘と素敵な夫になる人と出会いました!』
<2>『いじめられっこの僕がラスボスの弱点?! 魔法を勉強して最恐魔導士に挑む件』
<3>『憎まれてばかりの僕が殺されかけたが生きていたので、他人を憎ませて世界を変える!!』
という作品3本が含まれている。(答え合わせ)
【転生方法】一番多かったのは「転生前の己は死ぬ」作品。一作品明確に「昏睡状態」というのがあった(『悪役令嬢転生おじさん』)
介入は神や何らかの人物が転生するように仕向けたもの。召喚が国や人から望まれて転生する→それが比較的周知されているのに対し、介入は転生したという知識を転生者と介入させた人物だけが知っている場合が多い。
不明は転生前の記憶が朧気で「転生した」という知識だけある作品。
【死亡理由】一番多かった死亡理由は「車に関する事故」。「うっか死」は誤って転倒して死ぬ……といううっかりした亡くなり方をしたもの。
【転生先身分】合計すると99なのだが、一つは表現が悪すぎて「誰が転生したのかいまいちわからなかった」作品だったため。転生って書いてたもん…。
【感想】
■輸出される男性に向けた“ミサンドリー”と“ミソジニー”
ミサンドリー、男性嫌悪、男性蔑視ともいうが、今回調査した転生ものの中には「30代~40代までの間に何かを成せないまま、結婚もできず草臥れて平凡なオッサンになるぐらいなら“死んだ方が良い”」という男性から男性に向けたミサンドリーを感じた。特に序盤、転生する際にこうしたメッセージがふんだんに盛り込まれ、世界をリセットする(転生する)ことで自分のいる世界に生じている問題をすっかり忘れさせているというスイッチと化している。
また、女性主人公が創作物の世界の中に転生する作品で「(創作のキャラクターのように)美人でいつもニコニコしていて、彼女のように強かったら自分も出世していただろう」というミソジニー丸出しの文章が当然のように鎮座していて度肝を抜かれた。(誰にも何も言われなかったのだろうか)
関連して、貴族の妻であるはずの母親が“家事”を行っているシーンの描写が目についた。余程の貧乏貴族でメイドなどを雇う余裕がなく、身分差による結婚で母親が嫁いできた……という描写などはなく、メイドが居るのに洗濯籠を持った母親が転生に驚いた子どもの前に現れたのだ。これは現代の価値観である「母親は家事をするもの」という意識がナーロッパという過去描写への再輸入となっている。貴族の妻が家事するか? という疑問を感じられないのだ。
貴族の妻ほど勉学する存在も無いのでは。もしかしたら複数の言語を話せる可能性もあるし、主人公のためになる本を先に読んでいる可能性さえある。メイドのいる家庭なら隙間時間で芸術的な物事もこなせる。母親が子どものためにより良い家庭教師を見作ろう可能性も数多あるだろう。
だが、母親は生まれ変わりの自分を生んでくれさえすればそれでよいらしい。とんでもないミソジニーになってしまっていないか?
20260210 追記「パン警察」
■令嬢、理由なくパンを焼いては成らぬ
気になることがあり、再調査を始めたら「令嬢」と呼ばれる方がパンをこねていた。パンを!!!? あの村や町ですらパンを焼く係が居て、その人に家のパン種を持って行って「やいてくださーい」とお願いするあのパンを?!!!! あの火力がクソめんどくさいと言われていたパンを???!!! 英語でBreadを!??? パン窯がないと焼くのが難しいパンを!!!!?!!!?!! こねる! 令嬢が!!! パンを!!!!! パン焼きを現代の知識で語ってはならぬ!!! パン焼きは職人による重労働! 町内皆様のパンと一緒に焼くもの! パンを気軽に焼いては成らぬ! パン焼きはメイドに教えられるものに非ず! サーモスタット(1885/温度管理のための部品)登場まで気軽に我らパン焼けず! おいしいご飯作る係、貴族任命、仕事別! パン作りnot女子力!!! 叫ばずにいられなかった。
■転生前は50~70%が自分の境遇を嘆いている
転生前の主人公が不幸であった場合を自分の主観で調査した(社畜、ブラック企業勤め、孤独、冴えない、平凡、病を患っている、いじめ、過労死するほどの勤務、婚約破棄、詐欺にあう、不合格、借金、自己評価が低いなど)が、調査100作品の半分になる50作品だった。生前を思い出せない(が、転生したことは覚えている)作品を計算から除外して再計算したところ71%が「不幸」という結果になった。どう見積もっても50%は転生前が不幸だという統計になった。
■転生前の自分を嫌わず、転生後も楽しむ人々
読んでいると上記統計とは真逆の転生前の人生をめちゃくちゃエンジョイして老衰→転生という後期高齢者や、「転生前の知識を生かして誰かを幸せにする」という転生者が登場する。前の自分は「バリバリのキャリアで美人だった!」というとてもポジティブな人までいた。
こうした転生者は家族と円満で前の世界に未練を残す人が多いが、切り替えも早い印象。まぁ、うじうじしてても始まらないし……。また、女性が多い印象がある。唯一、円満で男性だったのは『悪役令嬢転生おじさん』。この作品は家族と死別ではなく「昏睡」という点でも他作品と一線を画す。転生者である憲三郎は家族と良好な関係を抱き、公務員として安定した生活を営んでいる中、トラックに轢かれそうになった子どもを救おうとして転生してしまう。
個人的な作品に対する好感度なのだが、転生前でもそれなりに人生を謳歌している人の方が好感度は高かった。転生前の自分を楽しんでいる人は、転生前のキャリアを転生先でも生かす場合が多い。こうした転生は少女漫画のような印象を強く持った。ただ、少女漫画っぽい作品というざっくりした視点且つ、そうした作品の母数は今回の調査でも20あるかないか……と思える程度で、圧倒的に少なかった。
■考えられていない「うっかり眠ってしまったトラックの運転手立場」
トラックが突然突っ込んできて、転生者を轢き「ダイジョブですか~」と駆け寄るというシーンがよく描かれる(トラ転と言うらしい)が、仕事に疲れ切った社会人の転生者が転生先で自分をリセットするという現代社会への無責任の裏側で、転生もせず誰かを轢きそれでも荷物を運ぶという社会インフラを担うトラックの運転手やバスの運転手の不憫さは考えられていない。きつめの言葉を言うなら「今の世界に対して無責任」ではあるよね。
UberEatsのCMで、暑さ寒さの中、商品を届けさせることに関するグロテスクさが指摘されていたが、何というかそれと似たグロテスクさにモヤモヤしたものを感じた。転生したいのはトラックの運転手も同じなのではないか、なんでトラックの運転手には神様が介入しないのだろう。
【おわりにというか…】
調査中、印象深かったのは男性主人公の浪人生が不合格後転生(介入型)するのに対し、女性主人公は何らかの試験に合格した後転生する(トラ転型)という転生前非対称な作品があったこと。
現代に対する閉塞感が「異世界」「転生」作品を増やしているという気がしてならなかった。少なくとも、転生前の転生者の半分以上が「不幸」だと己の境遇を嘆いているという結果は自分の予想通りなんじゃないかな。とぼんやり考えている。
その裏側で、こうした閉塞をぶつける書き手の側に意識が無いと、現代の持つ負の側面を閉塞感を打破するためのスイッチとして消費しつくしてしまい、それが現実(私たちが本当にいる世界)に還元されないどころか、より偏見と分断を深めてしまうような描写が再生産されているというのが気になる。
読み手の側もそれをどう受け取っているのだろうか。「この辺の描写、偏見がヤバイ」と気付いて是正できる人と、そうではない人でかなりの差があると思う。それを指摘できる批評家などいるのだろうか。
<1>『魔法にかけられて』
<2>『ハリー・ポッター』
<3>『帰って来たヒトラー』
<1>魔法にかけられて
2007年公開。王子との結婚で女王になる予定の主人公ジゼルは井戸に突き落とされ、現代NYに落ちてしまう。NYで弁護士フィリップと出会ったジゼルは少しずつ彼と恋に落ちるが、現代NYの殺伐とした雰囲気に負の感情も覚えて行く。
<2>ハリー・ポッターシリーズ
冴えない少年ハリーはある日、ホグワーツ魔法学校への入学手紙を受け取り、魔法使いとしての知識を学びながら、両親、自分の額にある痣の原因となる宿敵ヴォルデモートとの戦いを描くファンタジー作品。
<3>帰って来たヒトラー
薬を飲み自殺した後、ガソリンをかけられたはずのヒトラーが生きていた? という設定の小説。後に映画化された。物まね芸人として社会は笑いつつ、彼を次第に受け入れて行く。しかし、それは社会分断の始まりとなった…。
問題までもどる
2026/02/09
20260210 追記「パン警察」